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1.愛媛県内の分布

愛媛県のホシミスジ

愛媛県におけるホシミスジの分布の概要



  四国中央市では、旧川之江市から旧伊予三島市の平野部において、植栽されたユキヤナギやコデマリで比較的的普遍的に分布しており、隣接する旧新宮村の低山地の分布地とあわせてまとまった産地を形成している。この地域では今のところ自生の食樹は記録されていない。この地域に隣接する旧土居町でも人家周辺のユキヤナギやコデマリを探索してみたが、分布を確認することはできなかった。

 新居浜市から西条市、東温市にかけては、四国山地において主に自生のシモツケ類を食する個体群が分布しており、分布は離散的である。東赤石山の産地は標高約1550mであり、愛媛県での最も標高の高い産地となっている。西条市下津池のように比較的個体数の多い産地もあるが、全般的には個体数は少ない。

 芸予諸島においては比較的産地が多く、島単位で今までに記録のある所は、弓削島、生名島、岩城島、大三島、伯方島、大島の6島である。今後調査が進めば周辺部のいくつかの島で記録が出るであろう。このうち弓削島は最も分布が広く、ほぼ島全体に分布しており、特に東部地域では個体数も多い。

 松山市では、愛媛大学農学部で1955年に1頭の記録が見られるが、明らかに偶産記録と思われる。また、松山市南部の窪野町で分布が確認され、砥部町、伊予市の産地を含め、まとまった産地を形成している。さらに、旧北条市の恵良山、腰折山に分布しており、高縄半島での唯一の生息地となっている。高縄半島では、旧大西町、旧菊間町、旧玉川町、旧朝倉村等で栽植されているユキヤナギやコデマリを調査したが、生息を確認することはできなかった。

 上浮穴郡久万高原町では産地は少ない。この中で、古岩屋と岩屋寺は礫岩の岩峰に自生するイブキシモツケを主な食樹としている産地で、比較的個体数も多い。

2.生態


 (1)食樹
  現在までに愛媛県で記録されている食樹は、ユキヤナギ、コデマリ、シジミバナ、イブキシモツケ、イワガサ、トサシモツケの6種である。

               ユキヤナギ                                  コデマリ

             シジミバナ                            イブキシモツケ

               イワガサ

このうち、自生の食樹はイブキシモツケ、イワガサの2種で、残りは栽植された食樹である。イブキシモツケは、島嶼部の海岸地帯から四国山地の低山地にかけて幅広く分布が見られ、食樹としても各地で記録されている。また、イワガサは主に四国山地の山地帯に分布しているが、西条市下津池のように一部低標高の地点でも確認されている。東赤石山のように場所によっては極めて豊富に生育している場所もあるが、現在のところイワガサを食樹として確認している地点はわずかである。

栽植された食樹のうち、主要な食餌植物となっているのは、ユキヤナギとコデマリの2種である。特に四国中央市の旧川之江市から旧伊予三島市にかけての平野部では、人家周辺に栽植された食樹で普遍的に生息している。その他の地域でも、自生の食樹で発生している地点の周辺部に、栽植された食樹が見られる場合には、栽植された食樹でも発生している場合が多い。シジミバナ、トサシモツケは、ユキヤナギ、コデマリほど栽植される頻度が高くなく、食樹として記録されている地点も限られている。

そのほか愛媛県内で知られているシモツケ属の植物としては、シモツケがあり、東赤石山や天狗高原等の標高の高い地点で生育が確認されているが、幼虫等は未確認である。

以上、愛媛県での自然状態での食樹としては、平野部〜低山地ではイブキシモツケが主体であり、山地帯ではイワガサが主要な食樹となっていると考えられる。また、平野部を中心に、栽植されているユキヤナギ、コデマリもかなり利用されていると考えられる。

(2)周年経過

 越冬世代の初発は標高が低いほど早い傾向が見られる。標高100m以下では5月下旬から発生が見られ、最も早い記録は今治市大三島宮浦(標高10m以下)の519日である。標高200300m地点では初発は5月末からとなり、標高400mでは6月上旬から、標高500600mでは6月中旬からの発生となる。最も遅い記録は、四国中央市中曽根町六塚(標高50m)の104日であり、標高250mの砥部町銚子滝では924日、標550mの久万高原町古岩屋では915日である。標高600m程度以下では8月中旬以降の記録が見られることから、年2回以上発生していると考えられる。それに対して標高600m以上では、7月から8月上旬にかけての時期にしか記録が見られないことから、年1回の発生にとどまると考えられる。

西条市下津池(標高300m)では5月末から記録が見られ、6月上〜中旬に個体数が多く、その後記録は断続的になるものの、7月中旬まで記録が見られる。その後しばらく記録が途切れ、8月中〜下旬にわずかに記録がある。5月末〜7月中旬の記録は越冬世代成虫(第1化)、8月中〜下旬の記録は第1世代成虫(第2化)と考えられる。越冬世代成虫の出現時期はほぼ1カ月半に及んでいる。
 四国中央市平野部での周年経過の模式図は以下の図の通りで、年1化、2化、3化の個体が混在しており、8月以降は各世代が混在していると考えられる。
















3.変異
 四国中央市の旧川之江市から旧伊予三島市にかけての平野部の個体は、大型であり前翅長は最大で♂
32mm、♀34mmを超える。また、白斑の発達がよい。四国中央市新宮町の個体も、基本的には平野部の個体と大きな差異は見られない。四国中央市の個体は、平野部の産地だけでなく旧新宮村の産地も含めて同じ変異の産地を形成していると考えられる。

 上島町弓削産の個体は、四国中央市の個体群と同様に大型で、四国中央市産に次いで白斑が発達している。この地域の個体の大きな特徴としては、前翅が横長になり前翅先端部がとがっているため、翅形が他地域のものと異なる印象を受ける。

 松山市恵良山の個体は白斑の発達程度は中程度で、翅形が丸味を帯びる特徴が認められる。

 砥部町大角蔵、外山の個体は白斑の発達は中程度で、前翅先端部がややとがる傾向が見られる。伊予市明神山の個体も同様の傾向が見られる。

 久万高原町の古岩屋、岩屋寺の個体は、いわゆる四国東南部山地亜種ssphamadaiの特徴に近い黒化個体を産することで知られている。黒化の特徴としては、徳島県、高知県産の黒化程度の進んだ個体と、基本的には同じ傾向を示している。前翅だけ見れば、むしろ徳島県、高知県産の黒化個体より黒化している個体もある。黒化の程度については、同じ古岩屋、岩屋寺の産地においても、黒化の進んだものから黒化傾向の少ないものまで、様々な程度の個体が見られる。


  四国中央市戸川公園         西条市下津池           上島町藤谷            松山市恵良山

         
     砥部町大角蔵            伊予市明神山          久万高原町古岩谷        久万高原町岩屋寺